続・ヤマアラシのジレンマ

とある通信会社に勤める超平凡社員の毎日。株式投資 仮想通貨 Ai 写真 音楽 育児 GoPro おつまみ などの話題が多くなりがち 好き勝手書くことにしました。

新生児仮死からの出生の記録(前編)

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明朝5時半

妻陣痛。ついにきたか。

いまかいまかと待ってはいたが、どこか、まだ少し先だろうと構えていた。しかし予定通りにくるもんだ。妻苦しそう。早々と身支度を済ませ準備していた妻の入院セットのキャリーケース、バッグを抱え夜明け前の自宅を出発する。

 

6時駐車場到着。

妻、ゆっくりとした歩みで、東北公済病院へ。晩翠通りと定禅寺通りの角のパーキングへ予定通り停め向かう。深夜出入り口と聞いていた2号館に向かうも、この時間は道路むかいの1号館から入ってくださいと警備員。のんびりとした口調の警備員と、今にも生まれそうなはらはらとした妻の状況の落差が大きい。ただのバイト君であろう。君は悪くない。しかし、いくら道路挟んだ向かいの建物とはいえ、陣痛真っ最中の妻にとっては、それが100キロの距離にも感じられただろう。頑張れ、妻。

 

6時10分病院へ

7Fの母子センターへたどり着く。すぐに看護師さんが妻の元へ。スタッフにとっては慣れたことなのだろう。辛そうにしている妻への声がけが行き届いていると感じた。ここまでくれば一安心と、しばしホッとする。しかしながらここからが勝負。妻、本当に頑張れ。診察があると言うことで待合室でしばし待つ。一息缶コーヒーを飲む。10分後、看護師が待合室へやってきて、子宮口が4センチほど開いていると言うことで、このまま入院し、普通分娩になると言うことで準備を進めるとのこと。ここから長くなりますよと看護師。わかっていますよ、妻の声がけ、記録用のカメラなどはもう準備万端です。車に荷物をとってくると伝え、一旦車へもどり、自分の準備をすることに。

 

6時25分再度待合室へ

妻も体の準備をしてきたが私も準備万端だ。gopro、デジカメ、モバイルバッテリー、軽食、水分等を満載したリュックをもち意気揚々待合室へ。残りのコーヒーを飲み干す。子宮口4センチ。午後には生まれるだろうか。ここからは妻のサポートを優先、自身もできるだけのことをしよう。父親になるという実感はまだないが、今日できるだけのことはしよう、と朝焼けで紫色に染まる国分町を眺める。そんななか、今日1日祝福するかのように便意が。まずはトイレに行って気持ちを整えよう。

 

6時33分 急変。

便秘だった。下痢気味ではあったが少し出て、ホッとする。事態は静けさと隣り合わせで進行する。

 

「旦那さーん!!旦那さーんいますか!!!?」

 

トイレの扉越しに看護師が走り回る声が聞こえる。

こんな朝っぱらから、どこの旦那を呼んでいるんだ。

 

「いがらしさーーーん!!!!!!!!!!どこー!!?」

 

おれか。

 

「はーーーい!!!すみません、トイレです!今出ます。」

 

久々の便意、ゆっくりケツをぬぐいたい気持ちだが、急ごう。妻も頑張っている。

よおし。ここから長丁場になるぞ。

今出ますって言ったけど、もうウンコは出ているので、何が出るんだかすこし笑えてくる。

 

「緊急帝王切開になりまーーーーす!!」

 

 

はい?。

え、帝王切開ってなに?手術?切るの?

なんで。怖い。赤ちゃんは大丈夫なの?てか妻は大丈夫なの?怖すぎる。

 

 

6時40分 妻手術室へ

ストレッチャーのに乗せられた痛々しい妻が、エレベーターに乗り手術室へ運ばれていく。なんと声をかければいいかわからない。とりあえず、「頑張れ、だいじょうぶだよ」と声をかけてみる。痛みなのか妻も混沌とした意識なのだろう。反応が薄い。エレベーターがしまる直前手を動かして合図を送ってくれた。がんばれ。

 

〜〜

 

何時間たったのだろうか。永遠に感じられた。

 

ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる

 

不安ばかりが出てきては消え、出てきては消えを繰り返す。

きっと大丈夫だ。大丈夫大丈夫。なんども自分に言い聞かせる。

だけれど、何を根拠に大丈夫なんだ?僕に何かできるのか?手術室で手を差し伸べることもできないのに何が大丈夫なんだろうか。妻も子にも何かあったら、僕はこの先ずっと一人なのか?など、ぐるぐるとなんども何時間も同じことを考える。しかし、何時間にも感じられたこの時間は、実はたった15分くらいの時間だったと言うことに驚く。これほど脳が圧縮されたような気分は初めてだったかもしれない。

よくわからないが、宇宙飛行士が、飛行船に綱で繋がれて、宇宙空間をさまよいながら、なにか作業しているような、そんな映像が浮かんだ。

命綱がきれてしまったら、永遠に真っ暗な宇宙空間に放り出されていくような。

でもそんなこといったら、妻と子は、マグマの中に体を突っ込んでいるのである。そんなことをおもっていたら、妻と子をマグマから引っ張り出そうとしている、お医者さん、看護師さん、助産師さんの姿が想像できてきて、涙が出てきた。

 

何も食っていないのに吐き気がしてくる。

かき消す。不安を。

 

 

7時

待合室に看護師さんが食事を持ってくる。なんすかこれ?という感じだが、妻が食べるはずの食事だそうだ。妻は帝王切開中であり、当然食べられるはずがない。なので、旦那さんどうぞとのこと。病院はある意味このようなところはドライな感じもあり、きっちりスケジュール通りに食事が出てくる。宇宙空間で飯が食えるか!

 

7時3分 娘誕生

この世に生を預かると言うことは奇跡以外なにものでもない。ましてや、私たち夫婦は多少なりとも壁を乗り越えてここまで辿り着いたからである。娘よ、生まれてきてくれてありがとう。ストレッチャーで運ばれてきた娘は本当に愛くるしい。私たちの所にきてくれてありがとう。

とはいえ、まだまだぐるぐるの最中、宇宙空間に飛び出しそうな僕は、半分放心状態、君にかけた初めての言葉は不安で震えていたかもしれない。申し訳ない。そのぶん一生かけて君を大事にしていくよ。

 

8時 手術終了

本当に長かった。丸一日かかったのではないかという手術であったが、実は1時間ちょっとしかたっていなかった。朝焼けがかった空からはじまった1日は、ほんのり活気を帯びた12月前のキンとした空に変わっていた。

ストレッチャーで運ばれてきた妻の顔を見て、どっと肩の力が抜けた。涙が溢れた。「がんばったね。びっくりしたね。生まれたよ、ありがとう」そんなことを伝えたような気がするが、何を話したかは今になってはあやふやだ。とにかく二人とも無事でよかった。妻の目にも涙がみられた。よくがんばったね。妻と一言二言、看護師ともそのくらいの言葉をかわし、病室へ運ばれる妻を見送る。

 

8時10分 ヒーロー

待合室でまだまだ落ち着かないなか、額に汗を浮かべた医師がやってきた。メガネで色白で背が高く、僕と同じくらいの年齢だろうか。

「お食事のところすみません。五十嵐さんですね?執刀を担当した○です。」

 

(食べていないので大丈夫です。。。)

 

「赤ちゃんの状況ですが、朝のエコーをとったところ、最初は異常とは言えない範囲内の心拍が測定できたので普通分娩を予定しておりました。しかし、徐々に心拍が下がり、危険と判断したため急遽帝王切開となりました。状況としては、陣痛による赤ちゃんへのストレスなのか、赤ちゃんの便で羊水が急激に濁ってしまい、それを赤ちゃんが飲み込んでしまうという、具体的には胎便吸引症候群という症状でした。帝王切開のレベルとしては、最重度、緊急性も高い・・・・・・(略)」

などといった説明。今となっては要所要所思い出せるが、その日は先生の顔もなんだかぼやけているし、言葉が宙にうかんで脳みそに入ってこないような印象だった。とにかく無事、なんとかなっている、と言うことだけを理解できたようなかんじだった。

でも、妻と子をマグマから引っ張り出してくれた先生は、間違いなくヒーローだった。

本当にありがとうございました。

 

つづく